CHAPTER0「グランド、ゼロ」その1

ある日いきなり東京都庁前へと呼び出された俺は「ムラクモ機関」という組織の審査を受けることになった。俺の持っている力はいつの間にか日本政府に把握され、「S級」とかいうカテゴリに入れられていたらしい。少なからず動揺するが、周りの連中が口々に喚き立てて俺の聞きたい事柄を聞いてくれている。ここは口じゃなくて目と耳を働かせる時だろう。しばらく黙って周囲のやり取りを聞くことに徹する。


「ムラクモ機関」という組織はマモノとの戦いを専門にする組織らしい。この組織の選抜試験は毎年変わり、今年の試験は『都庁の中にいるマモノを倒すこと』だと。マジか。俺はろくすっぽ喧嘩もしたこともない素人だぞ。ちょっと火が出せるだけの一般人だ。こんな能力、バーベキューのときにチャッカマン代わりに一発で火をつけるくらしか使い道が無いってのに。


俺の気持ちとは無関係にポンポン話が進み、教官のガトウとかいうオッサンは3人でチームを組めと言ってさっさと居なくなってしまった。周りを見ると戦車まで持ち出してきてこの周辺を封鎖してやがる。こっそり逃げるってわけには…いかなそうだな。


仕方なくそこいらの奴らに話しかける。近くに立ってた自衛官の男が
「君がトリックスターならこれが役に立つだろう」とハンドガを渡してきた。


いや、俺、トリックスターじゃねえし。そもそも銃なんて撃てねえっての。別の俺が使えてしかも強いやつくれよ。なあ。なあって。
……食い下がったが無視された。


この場でケシズミにするわけにもいかず、黒い殺意を抑えつつ殺す奴リストの一番上にこいつの名前を書き加えてターミナルへ向かう。これにチームの仲間を登録すればいいってわけだ。さて、誰にしようか。周りを見ると、すばしっこい奴らはさっさとチームを組んで中に入っちまったらしい。もう外には受験者だか候補生だかは殆ど残ってねえでやんの。