CHAPTER0「グランド、ゼロ」その3

3人揃ったんで都庁へ向かう。教官のガトウというおっさんが待ち構えていてこっちを値踏みしてきた。
「3人揃ってるようだな。お前たちが最後だ。他の奴らはもう入ったぞ。よし、ついてこい」
おっさんに続いて中へ。


都庁の中は外からの日光がどういうわけでか入ってきていないらしく妙に薄暗い。
辺りには何とも言えない不気味さが漂っている気がして落ち着かない。
他の候補生たちも同じなのか外の様子と違って口を開くやつがいない。
俺はというと、別の理由で固まっていた。
ヤベーよあの赤い花超ヤベーよ、と俺の知らないはずの知識*1が最大級の警報を発する。
「どうした」
「なにかあった?」
「いや、べつになんでもない。ははは、ははは。ほら、何か喋るみたいだぜ」
不審そうな目つきでこっちを見る2人をごまかしつつ、注意をガウトのおっさんのほうへ向ける。


「さて。ムラクモ機関の今年の試験だが、お前らにはこの都庁に追い込んだマモノどもの相手をしてもらいながら3階まで登ってもらう」
「…どこにマモノがいるんだよ?」
そういう余計な事言うとさー。
言い終わらないうちにガトウの背後に「何か」が現れた。
ほら出た!
ガトウー! 後ろ後ろー!


落ち着き払って振り返ったガトウは動じた様子も無くこっちに声をかけてきた。
「ガハハ! ちょうどいい! そうだな…よし、最後に入ってきたお前たちがこのマモノの相手をしろ!」
本気か?
いきなりできるかっての。
え、本気?


現れたのはウサギ…みたいな。
「ラビ」と呼ばれるマモノだ。
ガトウや自衛隊員たちが何でもなさそうに構えているとこからも分かるが、べつに大物じゃあない。
だからって今日召集したばかりの素人に任せようって発想は普通出ないだろう。
常識的に考えて。
なんて俺が腹の中でブツブツ文句言ってるうちにムラサメが飛び出していく。
「ハァッ!」
掛け声も勇ましく抜き打つ。
びびってる気配も躊躇う様子も無しに全力で刀を振りぬく。
血というか体液というか、ざっくりと斬られたラビの体から飛び散り、苦悶の悲鳴があがる。
けど。
倒せてねえぞ。
傷を負ったことがラビのマモノとしての凶暴性に火を点けたか、大きく口を開けて俺に向けて跳びかかってきた。
マジかよっ!?
咄嗟に顔を両腕で庇う。
嫌な音と一緒に
「平気か!?」
クリティカルヒットする兎じゃなくて助かったよ!」
顔をかばった腕がどうなってるのかなるべく見ないようにしながら怒鳴り返し、痛みと怒りと恐怖の感情の波を束ねながらマモノに意識を集中させる。
強い感情は強いエネルギーになる。
必要なのはコントロールだ。
炎よ、来い。
「熱いヤツ!」
まだ無傷だったラビめがけて一気に解き放つ。
俺の目の前で巻き起こった炎はラビだけを飲み込み、ほんの一瞬で跡形もなく燃やし尽くした。
「フッ!」
ムラサメの一刀に耐えたラビだったが、追い打ちをかけたハヤテの拳をまともに受けて小石のように吹っ飛び、二度三度床で跳ねるとそのままかき消えた。


フゥゥーー……。
初めて…………マモノをやっちまったァ〜〜〜〜〜♪
でも想像してたより、なんて事はないな。
「お見事」
「そっちもね」
「よおし。ガハハ。よくやったな!」
誰かツッコんでくれよう。


「途中にいるマモノを倒しながら3階まで上がるんだ! いいな!」
それを聞いた候補生たちが俺たちのほうには視線も寄越さず走り出した。
考えてみりゃあ当然だ。全員が「ライバル」だもんな。


気を取り直してガトウに近づく。
「おう! ご苦労だったな! 素人にしちゃまあまあだ! ガハハ!」
さっきからガハハガハハと五月蝿え奴だ。
「ケガしてるじゃねえか! これを使え。1チームだけケガしてのスタートじゃ不公平だからな。それじゃあ頑張って3階まで上がってこいよ! ガハハ!」
薬に罪は無いので貰っておく。
そして言いたいことだけ言ってさっさと行ってしまった。
あんにゃろう。
とにかく3階まで登れば合格らしい。
ここまでやらせといて不合格とかありねねえので登ることにする。

*1:プレイヤー知識