CHAPTER0「グランド、ゼロ」その5

突っ走っていったガトウに続いて4階に上がる。
これまでと同じようにマモノが近づいてくる気配。
「どうする。切り払ってもいいが」
「突っ切ろう。なるべく戦わずに」
「おーけー」
ムラサメ、俺、ハヤテの順に一列になって走る。
ムラサメは鞘に納めたままの刀で殴り倒し、
俺は火で道を作り、
ハヤテは持ち前の身軽さで敵を避ける(マモノを馬跳びなんてしてた)。


「お前が持ち場を離れるとはな」
「いやあ。あれは他のマモノとは訳が違いますよ」
ガトウに追いついてみると、赤毛の男と話をしている。
「おう。来たか」
「お。今年の候補生? 俺はナガレ。ガトウさんの部下だよ。よろしくな」
よろしく。
で、この部屋の中ってことか。
そこのところにワザとらしく回復アイテム置いてあるし。
ともかく手持ちの薬で傷を癒し、体勢を整える。
「よおし。準備はいいか?」
無言で頷く俺たち。


「突入!」
ガトウが豪快にドアを蹴り破って先陣を切る。
中にいたのは。
巨大な体、大きく広がる一対の翼、全身を覆う強靭な鱗、怪力を宿す四肢、大剣のよ

うな鉤爪、人間くらい丸呑みにしそうな顎。
そこに居たのは、世界一有名なモンスターと言ってもいいだろう、ドラゴンだった。
へっ。
…まさかこんな怪物が現実に動き回る姿を自分の目で見るとはね。
ラクモに入るかどうかはともかく、一生ものの思い出話ができたぜ。
ま、ムラクモの現役隊員も入れて5対1だ。
早いところ倒して試験を終わらせたいね。


重たげな足音を立ててドラゴンがこちらに一歩踏み出す。
爛々と輝くドラゴンの双眸が俺たちを捉える。
「いくぞ!」
そしてD1との戦いが始まった。
これが俺たちと…と言うか、まあ、人類と、だな。
人類とドラゴンの長い長い戦いの初戦に過ぎなかったという事実を俺たちが思い知らされるのは、もうしばらく後のことだった。